リスクが高くても儲かるとは限らない:リスクとリターンの真実
「ハイリスク=ハイリターン」は必ずしも正しくない。算術平均と幾何平均の違い、ボラティリティが長期資産に与える影響を解説。
「ハイリスク=ハイリターン」は幻想?
投資の世界では「リスクが高いほど期待リターンが高い」と言われます。これは期待値(算術平均)の話です。しかし長期で資産を運用するときに重要なのは**実現値(幾何平均)**であり、この2つには大きなずれが生じます。
算術平均 vs 幾何平均
同じ「平均リターン+10%」でも、ボラティリティによって最終資産は大きく変わります。
例:同じ算術平均リターンでも結果が違う
| ファンドA(低リスク) | ファンドB(高リスク) | |
|---|---|---|
| 1年目: +10% | 1年目: +50% | |
| 2年目: +10% | 2年目: −30% | |
| 算術平均: +10% | 算術平均: +10% | |
| 2年後資産(100万→): 121万円 | 2年後資産(100万→): 105万円 |
$$A: 100 \times 1.10 \times 1.10 = 121\text{万円}$$
$$B: 100 \times 1.50 \times 0.70 = 105\text{万円}$$
算術平均は同じ+10%なのに、最終資産に16万円の差が出ます。
ボラティリティドラッグ(分散によるドラッグ)
上記の差はボラティリティドラッグ(volatility drag)と呼ばれます。幾何平均は算術平均より必ず低くなり、その差はおよそ:
$$\text{幾何平均} \approx \text{算術平均} - \frac{\sigma^2}{2}$$
(σ²は分散)
つまり、ボラティリティが高いほど同じ期待リターンでも長期の実現リターンが下がるのです。
50%下落の破壊力
下落と上昇は非対称です。
| 下落幅 | 元に戻るのに必要な上昇幅 |
|---|---|
| −10% | +11.1% |
| −25% | +33.3% |
| −50% | +100% |
| −75% | +300% |
50%下落したら元の価格に戻るだけで**2倍(+100%)**になる必要があります。レバレッジ商品や集中投資でのドローダウンが特に危険な理由です。
長期で報われる「良いリスク」と報われない「悪いリスク」
すべてのリスクが報われるわけではありません。
報われやすいリスク(市場リスク)
- 株式市場全体が下落するリスク
- 保有しているだけでプレミアム(リスクプレミアム)を受け取れる
- インデックスファンドで効率的に取れる
報われにくいリスク(非システマティックリスク)
- 個別株・特定セクター・特定地域への集中投資
- 分散投資で取り除けるのに取っているリスク
- 超過リターンを得られる保証はない
「リスクを取れば儲かる」ではなく、**「適切な市場リスクを分散して保有し、長期で報われるのを待つ」**のが合理的な投資です。
リスク許容度の考え方
投資のリスク(価格変動幅)は、自分が精神的・財務的に耐えられる範囲にとどめることが重要です。
リスク許容度を決める要素
| 要素 | 高リスク許容 | 低リスク許容 |
|---|---|---|
| 投資期間 | 長い(20年以上) | 短い(5年以内) |
| 収入の安定性 | 安定している | 不安定(フリーランス等) |
| 生活防衛資金 | 十分ある | 少ない |
| 含み損への耐性 | 気にしない | 不安・売りたくなる |
**最大のリスクは「損に耐えられず底値で売ること」**です。自分が眠れる範囲で投資するのが長期成功の鍵です。
実際の長期リターン(参考)
過去の実績(将来を保証するものではありません):
| 資産クラス | 長期年率リターン(目安) | リスク(年率標準偏差) |
|---|---|---|
| 先進国株式 | 約7〜9% | 約15〜20% |
| 米国株式(S&P500) | 約10% | 約15〜18% |
| 日本株式(TOPIX) | 約5〜7% | 約15〜20% |
| 先進国債券 | 約3〜5% | 約5〜8% |
| 国内債券 | 約1〜3% | 約2〜5% |
高リターンの資産ほどリスクも高く、価格変動に長期間向き合う必要があります。
まとめ
- 算術平均リターンが高くても、ボラティリティが高ければ幾何平均(実際の資産成長)は低下する
- 「ハイリスク=ハイリターン」は期待値の話であり、長期の実現値は下がりやすい
- 分散で除去できるリスクを取っても報われない
- 自分のリスク許容度に合った投資を続けられることが最大の武器